従業員の合意があっても不利益変更が無効となった実例(平28・2・19 最高裁第二小法廷)

事案の概要

1.経営破綻に伴う経営の危機を他の信用組合に吸収合併をしてもらうことによって存続をする方法をとった消滅した信用組合が、吸収合併の条件として、労働者の退職金の引き下げを要請されたため、退職金を2分の1以下にする内容の退職金一覧表を示され、それに同意を求められた管理職らがやむなくそれに従い、退職金を引き下げる旨の同意書に署名押印をした。

2.その同意書に署名・押印した管理職であったXら12名が、存続している信用組合に対して、退職金の不利益変更の同意は無効であるとして、存続している信用組合に差額の退職金の支払いを求めた。

3.第一審(平24・9・6甲府地判)、控訴審判決(平25・8・29東京高判)は、退職金一覧表の提示を受けて、合併後に残った場合の退職金額の具体的な提示と計算方法を具体的に知った上で、退職金を引き下げる旨の同意書に署名押印したのであり、不利益変更に同意したとしてXらの請求を棄却した。

4.本件判決は、控訴審判決は審理不尽で法令の適用を誤った違法があるとして、原審に破棄差戻しした。

 

判決の骨子

その1

使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に雇用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当ではなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。

 

その2

そうすると、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無は、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。

 

その3

本件基準変更による不利益の内容等及び同意書への署名押印に至った経緯等を踏まえると、管理職Xらが本件基準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するための必要十分な情報を与えられていたというためには、同人らに対し、旧規定の支給基準を変更する必要性等についての情報提供や説明がされるだけでは足りず、自己都合退職の場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高くなることや、Y組合の従前からの職員にかかる支給基準との関係でも上記の同意書案の記載と異なり著しく均衡を欠く結果となることなど、本件基準変更により管理職Xらに対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についても、情報提供や説明がされる必要があったというべきである。

 

その4

原審は・・・本件同意書の内容を理解した上でこれに署名押印したことをもって、本件基準変更に対する同意があったとしており、その判断に当たり、本件基準変更による不利益の内容等及び本件同意書への署名押印に至った経緯等について十分に考慮せず、その結果、その署名押印に先立つ同人らの情報提供等に関しても、職員説明会で本件基準変更の退職金額の計算方法の説明がされたことや、普通退職であることを前提として退職金額を記載した本件退職金一覧表の提示があったことなどを認定したにとどまり、上記(3)のような点に関する情報提供や説明がされたか否かについての十分な認定、考慮をしていない。

引用/厚生労働省サイト

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