固定残業代の有効性が争われた事案(平30・7・19最一小判)

事案の概要

1.保険調剤薬局を営むY社に勤務していた薬剤師Xが、Y社が固定残業代として支払っている業務手当は、みなし時間外手当の要件を満たさないから無効であるなどとして、時間外労働等に対する未払い賃金等の支払いを求めて提訴したもの。

2.XとY社間の雇用契約書には、賃金について「月額562,500円(残業手当含む)」、「給与明細書表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」との記載、②採用条件確認書には、「月額給与 461,500」、「業務手当 101,000みなし時間外手当」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」等との記載、③Y社の賃金規程には、「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして、時間手当の代わりとして支給する」との記載があった。

3.原審(H29.2.1東京高判)は、定額残業代の支払を法定の時間外手当の支払とみなすことができるのは、
①定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組みが備わっており、それが雇用主により誠実に実行されているほか、②基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、③その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られるとの解釈を示した上で、本件では、①業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのかがXに伝えられていないこと、②業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かをXが認識することができないことから、業務手当の支払を法定の時間外手当の支払とみなすことはできないとして、Xの請求を認容した。このため、Y社が上告したものである。最高裁は、原審の判断は是認できないとして、Y社敗訴部分を破棄し、差戻しを命じた。

 

判決の骨子

その1

①労基法37条は、同条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではないこと、

②使用者は,労働者に対し,雇用契約に基づき,時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより,同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる。

その2

雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。

その3

①本件雇用契約書及び採用条件確認書並びに賃金規程において,業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていたこと、X以外の各従業員との間で作成された確認書にも同様の記載がされていたことから,Y社の賃金体系においては,業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置付けられていたということができること、

②業務手当(約28時間分の時間外労働に対する割増賃金相当)は,実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではないことから,Xに支払われた業務手当は,時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められる。

引用/厚生労働省サイト

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