固定残業代の基礎知識

固定残業代とは

固定残業制度とは、実際の残業時間に関わらず、「一定の時間」分の時間外労働、休日労働、深夜労働に対して、毎月定額の残業代を支払う制度です。

この制度は、従業員に事前に通知し合意を得る必要があります。

制度を導入するには、あらかじめ「一定の時間」を設定しておき、実際の残業時間がその「一定の時間」を超えた場合には、超過分の時間外手当を支払う必要があります。

 

例えば、「一定の時間」を10時間と設定していた場合、10時間までの残業には追加の手当は支給されません。ただし、残業時間が合計で12時間になった場合、超過した2時間分の時間外手当が支払われなければなりません。

したがって、雇用者も労働者も、「一定時間」が何時間に設定されているか、また実際に何時間残業を行ったかを把握する必要があります。

 

また、固定残業制度は、毎月定額で支払うという仕組みであり、残業の有無に関わらず同じ金額を支払う必要があります。

たとえば、固定残業代として10時間分が設定されている場合、実際に残業した時間が0時間であったとしても、10時間分の支給を行う必要があります。

 

固定残業代の残業時間は何時間まで設定できるのか?

36協定が締結されている場合、固定残業代は最大45時間まで設定することが可能です。

労働基準法では、原則として1日の労働時間は8時間、週に40時間の法定労働時間が設けられています。法定労働時間を超える時間外労働は原則的には認められませんが、労使間で36協定を結び、労働基準監督署への届出が行われていれば、月最大45時間、年間360時間までの時間外労働が認められます。従って、固定残業代で設定できる残業時間の上限は45時間となります。

 

固定残業制度導入のメリット

1.従業員間で公平性が保てる

残業をする従業員の中には、仕事における能力の低さから業務を定時内に終えられない人や、生活費のために意図的に残業を行い残業代を稼ぐ人もいるようです。

その結果、通常の残業代制度では、能力の低い人よりも優れた能力を持つ人の給与が低くなるという問題が生じます。これによって、優秀な人のモチベーションが低下し、最悪の場合、退職につながる可能性もあります。

固定残業代制度を導入することで、同じ給与のもとで同じ仕事が可能となり、仕事を完遂するために必要な時間は、能力によって異なるかもしれませんが、給与には差が生じないため、従業員間の公平性を確保することができます。

固定残業代は、実際の残業時間に関係なく支給されるため、残業時間がゼロでも残業代が支給されるということです。

これは労働者が働いていない時間に対しても給与が支払われるということを意味し、仕事効率の高い人にとっては有利になります。

 

2.生産性向上につながる可能性

従来の残業時間に応じた残業代支給の方法では、残業時間が増えると残業代も増えるため、労働者には長時間の残業をすることが給与増につながるインセンティブが存在し、結果として無駄な残業や効率の低い労働が生じることがあります。

しかし、固定残業代制度では、あらかじめ設定された固定残業時間と固定残業代が給与に組み込まれているため、労働者にとっては残業時間を増やすことで給与が上がるというインセンティブがなくなります。これにより、無駄な残業時間の削減や業務の効率化が促進され、生産性の向上が期待されます。

 

固定残業制度導入のデメリット

1.無駄な人件費の発生リスク

固定残業代制度では、実際の残業時間が上限に達しなくても、残業代を含んだ給与が支払われます。

したがって、残業がほとんど発生しない企業では、無駄な人件費が発生する可能性があります。

 

2.トラブル発生リスクが高い

固定残業代制度は、規定の残業時間に対して一定の給与を支払う制度ですが、規定の残業時間を超えた残業に対しては給与を支払わないと法的に違法とされます。

また、求人票で基本給に固定残業代を上乗せして表示し、固定残業代が含まれていることを明示しない場合、労働者との間でトラブルが生じる可能性もあります。

固定残業代に関しては、企業と労働者の間でトラブルが発生しやすく、訴訟にまで発展することもありますので、注意が必要です。

 

固定残業代導入のポイント

1.求人広告や採用募集における表示義務

固定残業制度を導入している場合、①基本給の金額(固定残業代を除いた額)、②固定残業代の労働時間とその金額、③固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払いに関する説明の明示が、求人広告や採用募集において必要です。

求人票に固定残業制度を正しく表記しなかったら、ハローワークは労働関連法に違反する求人を一定期間受け付けないようにしています。同様の取り扱いは職業紹介事業者でも行われています。

また、求人メディアでもルールに違反する求人広告の掲載は断られることが多いです。

法的な罰則は存在しませんが、固定残業代の表示が適切でなかったため、過去に従業員が勤務を始めた日から遡って残業代の支払いを命じたケースもありました。

 

2.就業規則や雇用契約書の明示と従業員への説明

固定残業制度を導入する際には、具体的な内容や適用方法を就業規則に明確に記載し、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。

また、就業規則に明示した内容について従業員への説明や周知も重要です。

また、固定残業制度を導入することにより、給与や手当の支給額が従業員ごとに異なる場合があります。そのため、トラブルを未然に防ぐためにも、従業員との間で書面で確認を行うことが重要です。

給与辞令や雇用契約書を書面で締結することで、労使間で合意が成立したことを証明することができます。