「ワークシェアリング」とは、従業員が1人で行っていた業務を複数の従業員で分担し、全体の雇用者数を増やすことができる雇用創出策の1つです。
このアプローチは、過重労働による労災や過労死の問題に効果的とされ、労働者の健康管理にもつながります。
従業員の負担を軽減し、労働者が健康的で持続可能なキャリアを築くことができるようにすることは、企業としての責任を果たすためにも重要な課題です。
ワークシェアリングが注目されるようになった背景には、2つのポイントがあります。
まず第一に、失業率の上昇です。
失業率の改善が求められる社会や時代において、ワークシェアリングは多くの人々で仕事を分担することで雇用の創出を図る解決策として採用されるようになりました。
第二に、労働者の負担軽減です。
過重労働が必要な業務では、従業員が心身ともに疲弊してしまいます。これは離職や休職にもつながり、企業にとっても安定した労働力の確保が課題となります。
ワークシェアリングによって一人で行う業務を複数人で分担することで、個人の負担が軽減され、時間や心に余裕が生まれます。それにより、効率的に生産性を向上させることができるのです。
このような背景から、ワークシェアリングは世界的に注目され、その流れが日本にも広がっています。
企業の業績が悪化した場合に採用されるワークシェアリングの形態です。
業績が低迷している状況でも、既存の従業員を解雇せずに雇用を保持するために行われるワークシェアリングです。
業績が悪化した企業では、人材の流出が大きな懸念となります。そうした状況に対処するために、ワークシェアリングを導入し、現存の雇用を守り人材の流出を防止することが、業績低下を迅速に克服するための基盤となります。
定年を超えた従業員の中高年層の離職を減らすためのワークシェアリングです。
ワークシェアリングによって、中高年層を短時間勤務や少ない勤務日数で雇用し続けることで、より多くの雇用機会を提供することが可能です。
中高年層が離職せず企業にとどまることは、ナレッジや技術の継承などの観点でも企業にとって利点があります。
新たな雇用を生み出し、失業率の改善を目的としたワークシェアリングの形態です。
ワークシェアリングを通じて、既存の従業員一人あたりの労働時間を短縮し、その分新たな従業員を雇用することで、雇用機会を増やすというアプローチです。
景気の低迷などで求人倍率が低下している場合や、失業率の改善を図りたい場合に活用されることがあります。
多様なライフスタイルに適応し、柔軟な働き方を実現するために利用されるワークシェアリングの形態です。これは、現在進行中の働き方改革の手段の一つでもあります。
育児や家事、介護などとの両立を目指す場合、フルタイム勤務に限らず短時間労働を導入する際に、ワークシェアリングを活用して一人当たりの業務量を減らすことができるケースがあります。
多様就業促進型は、労働時間の調整にワークシェアリングを取り入れることや、企業や社会が多様な働き方を受け入れることを目指しており、業務の分担を促進するものです。
ワークシェアリングは、従業員のワークライフバランスの改善にも大きく貢献します。
一人当たりの労働時間を減らすことで、従業員は余暇の時間を増やすことができ、家族や趣味、教育などに充てることができます。
ワークシェアリング導入によって、従業員が自分の業務に専念することができるようにすることで、生産性を向上させることができます。
特に、従業員が得意とする業務を分担することで、それぞれの従業員が最適な仕事をすることができるため、仕事の効率化にもつながります。その結果、企業はより効果的な業務プロセスを構築することができ、生産性を向上させることができます。
ワークシェアリングは社会的な責任を果たす企業としてのイメージ形成にも役立ちます。雇用機会を広く提供し、多様なライフスタイルに合わせた働き方を実現することは、地域社会や社会全体の活性化にも寄与します。
そのような企業の存在は、社会的な信頼と支持を集め、持続可能な発展につながるでしょう。
ワークシェアリングを取り入れることで、個々の従業員のニーズに合わせた柔軟な働き方を実現し、優秀な人材の確保や定着につなげることができます。
ワークシェアリングを実施する場合には、既存の制度を見直す必要があります。単に新たな雇用を増やし、労働時間を減らすだけでは不十分なのです。
制度の見直しの一例として、短時間勤務制度や格差是正のための制度があります。既存のさまざまな制度を、すべての従業員にとって公平なものにするためには、企業にとって負担が生じます。
ワークシェアリングの導入により、短時間労働など新たな働き方が増えるため、給与計算業務のコストが増加します。
変更されるのは単に給与計算方法だけではありません。当然ながら、従業員数も増えるため、給与計算の対象も増えることになります。
給与計算は従業員の生活に直結する重要な業務です。ワークシェアリングなど新しい働き方を導入する際には、慎重な見直しが必要です。
ワークシェアリングにより、従業員数が増加することで、企業が負担する金額も単純に増えます。
社会保険料は従業員数の増加に応じて増加する可能性があります。また、従業員規模の拡大により、福利厚生や衛生管理、社員教育などの充実が求められ、それに伴いコストも増加する可能性があります。
ワークシェアリングを導入する際の一般的な手順について紹介しましょう。
ワークシェアリングを導入するためには、まず自社の業務状況を正確に把握する必要があります。どのような業務が存在し、それに関与している従業員は誰であり、それにかかる時間やコストはどれくらいかを整理します。
業務状況を整理した後は、効率的な業務の発見と見直しを行います。
不要な業務やコスト削減の余地がある業務を特定し、現在のやり方と比較して効率的な方法があるかを検討します。新しい手法やプロセスを導入することで業務を効率化できる可能性があります。
業務の見直しを行った後は、ワークシェアリングが適用できる業務や職種を明確にします。複数の人が分担して行える業務や、一定の品質を保つことが可能な均質化された業務が適切です。各業務や職種において、ワークシェアリングのメリットを最大限に生かすことができるかを検討します。
ワークシェアリングを実施する際には、各メンバーの役割と責任を明確に定める必要があります。
誰がどの業務を担当するのか、業務の進行状況の報告体制はどうなるのかを明確にしましょう。明確な役割分担と責任の明確化により、チーム全体の連携やコミュニケーションが円滑に行われます。
ワークシェアリングを実現するためには、適切なチームメンバーの選定と適切な配置が重要です。各メンバーの能力や経験、業務への適性を考慮して適切な配置を行います。
ワークシェアリングを効果的に運用するためには、従業員に対して具体的なガイドラインを提供することが重要です。
導入にあたり、責任者や運用方法だけでなく、変更点や制度・福利厚生、教育制度などについても詳細に整理し、ワークシェアリング運用のマニュアルを作成しましょう。このマニュアルには、ワークシェアリング導入の目的や背景、導入によって得られるメリットなどを明確に説明し、従業員の理解と協力を得ることに注力しましょう。
ワークシェアリングの運用が始まったら、定期的な評価と進捗の確認を行いましょう。
事前に設定した導入目的が達成されているかどうか、企業の業績向上に寄与しているかどうかを評価します。この評価を通じて、運用の効果を把握し、改善点を見つけ出してより効果的な運用に向けたブラッシュアップを行うことが重要です。
定期的な振り返りを通じて、ワークシェアリングの運用をよりスムーズかつ効果的に進めるための戦略的な手段を見つけ出しましょう。
ワークシェアリングの導入は、従業員の働き方改革や負荷軽減に役立ち、健康経営の実現にも寄与することができます。
従業員の負担を分散し、柔軟な働き方を促進することで、ストレスや過労の軽減が期待できます。また、チームワークやコミュニケーションの促進にもつながり、生産性の向上にも寄与します。健康経営を推進するためには、ワークシェアリングの導入を通じて働き方改革を実現し、従業員の幸福感と働きやすさを向上させることが重要です。