ジョブ型雇用とは、細分化した職務に、専門的な職務に特化した労働者を配置する雇用形態のことです。
労働契約を結ぶ際には、職務内容、勤務地、勤務時間などを明確に定め、労働者はその契約範囲内で業務を行うことになります。ジョブ型雇用では、基本的には人事異動や評価の対象
にはならず、人員に欠員が出ると採用募集を行います。
ジョブ型雇用は、欧米諸国で一般的な雇用システムであり、日本で従来から採用しているメンバーシップ型雇用とは異なる考え方です。一部の大企業がジョブ型雇用を導入することで、その導入が徐々に広がりつつあります。
メンバーシップ型雇用は、労働条件を契約時から退職まで一貫して維持するのではなく、労働者の能力や状況に応じて職務の範囲や内容を適宜変更していく雇用形態です。この方式によって、労働者の育成や教育訓練、配置転換、OJTを通じて多岐にわたる職務を遂行できる能力を持つ労働者を育成することが主な目的となります。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の主な違いは、ジョブ型雇用が人材を職務に割り当てるのに対し、メンバーシップ型雇用は人材に職務を割り当てる点にあります。
ジョブ型雇用では、応募者が自身の職務を理解しており、自身のスキルが適合していると判断し応募します。労働契約の締結時に定められた職務以外は、基本的には採用後に命じることはできません。
一方、メンバーシップ型雇用では、総合職や一般職などの雇用形態ごとに一括採用を行い、採用後に所属先や勤務地を決定するのが一般的です。さらに、就業中でも会社が人事命令を出して職務や勤務地などの労働条件を柔軟に変更することができるのが特徴です。
経済成長の停滞や高齢化、年功序列の困難さなどの課題に対して、ジョブ型雇用が解決策として提案されることがあります。しかし、単に職務記述書を作成するだけでは、課題が解決されるわけではありません。実際に、産業革命以降から第二次世界大戦後までの労働形態は、ジョブ型雇用の特徴を持っていました。メンバーシップ型雇用は、高度経済成長期に確立され、世界中で注目を浴びましたが、1990年代のバブル崩壊後には批判が出始めました。その結果、メンバーシップ型雇用とは対照的な特徴を持つジョブ型雇用が再び注目を浴びるようになりました。
日本経済団体連合会が「2020年版経営労働政策特別委員会報告」を公表したことにより、ジョブ型雇用が注目を浴びています。
この報告では、メンバーシップ型の利点を生かしながら、適切にジョブ型と組み合わせた雇用システムを確立することが提案されています。
2020年から進められている同一労働同一賃金の推進は、雇用形態に関係なく同じ仕事に対して同じ賃金を支払うことを目指しており、ジョブ型雇用の考え方とも一致しているため注目を集めています。
ジョブ型雇用は、職務に基づいて賃金が決まるため、定期的な人事評価が不要のため人件費の予測が立てやすいというメリットがあります。
メンバーシップ型雇用では、一般的に人事評価や査定、年齢、勤続年数などが賃金に反映されます。そのため、メンバーシップ型雇用では毎年人事評価が必要ですが、ジョブ型雇用では賃金が一定であり、人事評価が不要です。これにより、人事担当者の負担軽減も期待できます。
正社員と非正規社員が混在する部署では、職務に応じて賃金が異なるジョブ型雇用を導入することで、同一労働同一賃金の原則に対応した雇用システムを構築することができます。
ジョブ型雇用の導入により、社員がより好条件の企業に転職するリスクが生じ、人材が定着しにくいというデメリットがあります。ジョブ型雇用の社員は、専門的なスキルを持って働いているため、他社がより良い条件を提供した場合、転職の可能性があります。
このため、人材確保と労働力の維持を図るためには、ジョブ型雇用となる職務を再評価し、該当する職務の賃金を市場価値よりも高く設定するという対策が必要になります。
ジョブ型雇用では、各職務に特化した人材配置が行われるため、ある部署で急に人手不足が生じた場合、他の部署への異動が制約される可能性があります。
制約により、業務の円滑な運営や臨機応変な人員調整が難しくなるおそれがあります。適切な人材配置と柔軟な異動の推進が求められます。
ジョブ型雇用を導入する前に、対象となる職務を慎重に検討します。職務の性質や要件、責任範囲などを考慮し、ジョブ型雇用に適しているかを判断します。
対象職務について、明確かつ具体的な職務記述書を作成します。職務の目的、業務内容、必要なスキルや知識、報告ラインなどを明示し、職務の特性を明確にします。
ジョブ型雇用では、職務に基づいて賃金を設定します。対象職務の市場価値や業界の賃金水準を考慮し、公正かつ適切な賃金体系を構築します。報酬要素や昇給制度も含め、職務の重要性や難易度に応じた賃金設計を行います。
以上の手順が、ジョブ型雇用の一般的な導入手順です。
各ステップでの検討や文書化には、関係部署や関係者の意見やフィードバックを積極的に取り入れることが重要です。