リカレント教育とは、義務教育を修了した社会人が、自身のキャリアのために生涯にわたって学び続けることを指します。「リカレント」は「回帰」を意味する言葉です。
スウェーデンやフランスでは、勉学のために有給で一定期間仕事を休める「有給教育制度」が、アメリカでは地域住民が主体的に集まって学習を行う「コミュニティ・スクール」が、リカレント教育の代表的な例です。
しかしながら、欧米諸国ではリカレント教育が広く浸透している一方、日本ではまだまだ浸透していない現状があります。
リカレント教育の考え方は、スウェーデンのオロフ・パルメ氏によって提唱されました。彼は1972年にユネスコから依頼を受け、「学び続ける社会(Learning to Be)」という報告書をまとめ、一生涯を通じて学び続けることの重要性を訴えました。この報告書によってリカレント教育の概念が広く知られるようになり、現在まで世界中の教育政策に影響を与えています。
1990年代以降、情報化社会やグローバル化の進展に伴い、リカレント教育の需要が高まり、専門的な知識やスキルを身につけることが求められるようになりました。企業内での継続教育や研修が普及し、技術革新や国際競争に対応するための人材育成が重要視されるようになりました。
現代では、多様化・高度化する社会に対応するため、社会人が自己研鑽に励むことが求められています。リカレント教育は、日本でも重要な教育の一つとして認識され、多くの教育機関や企業で取り組まれています。政府も、リカレント教育の重要性を認識し、教育政策の一環として取り組んでいます。また、インターネットの普及に伴い、オンライン教育が注目され、場所や時間を問わずに学ぶことができるため、多様な教育が可能になりました。
リカレント教育が必要とされる理由には、主に次の3つの背景が考えられます。
日本では、高齢化が急速に進んでおり、将来的には4人に1人が100歳に到達する長寿社会になる見込みです。このような状況下で、高齢者でも能力を発揮し、社会に貢献することが求められています。
かつては、学校を卒業して就職し、定年退職後にはリタイア生活を送ることが一般的でしたが、最近ではキャリアアップやキャリアチェンジする人が増え、留学や新しい職業に挑戦するなど、多様なスタイルが広がっています。
人生をより豊かにするためには、学校卒業後も新たな知識やスキルを身につけることが必要です。その中でも、リカレント教育が注目されており、高齢者が社会に貢献するための重要な手段となっています。
現代社会では、人々が多様な職業で働くことができるようになり、IT業界やエンターテインメント業界など、新しい分野での職業が生まれています。
また、サービス業や製造業でも、グローバル化や技術革新により新しい職種が生まれています。
このような職業の多様化に対応するためには、常に新しい知識やスキルを身につける必要があります。
リカレント教育は、職業の多様化に対応するための重要な手段となっています。
現代社会では、急激に進む技術革新や社会の変化に対応するために、常に新しい知識やスキルを身につける必要があります。
インターネットやIT技術の進歩により、世界経済市場は刻々と変化し、ビジネス環境も日々変化を続けています。このため、技術革新や市場の変化に対応するためには、常に新しい技術を学び、就労と教育を繰り返すことが必要です。
2022年に発表された日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022」によると、日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中29位と低く、国際競争力が低下しています。
このような状況を打開するためには、リカレント教育の重要性が再び注目されています。
引用/日本生産性本部サイト
リカレント教育は、従業員が時代に即した知識や新しいスキルを身につけることで、直接的に業務効率化につながります。現代では、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展しており、これらを支援するデジタルスキルが重要視されています。デジタルスキルには、プログラミングスキル、セキュリティに関する技術、情報処理に関する知識・技術などがあります。
リカレント教育を導入することで、従業員がスキルアップ・キャリアアップできるようになり、会社への満足度が高まります。
会社への満足度が向上すると、従業員がその職場や組織に対して貢献したいと思うモチベーションも高まり、企業の人材の定着率が向上し、離職率が低下することが期待されます。
リカレント教育を導入することで、企業は社員のスキルアップやキャリアアップを積極的に支援する姿勢をアピールすることができます。このような取り組みは、企業のイメージを向上させ、求職者の興味や関心を引くことができます。
厚生労働省では、リカレント教育推進のため支援制度を設けています。
企業がリカレント教育を実施し、従業員に対して職務に関連する訓練を行う場合や、教育訓練休暇制度を導入して教育訓練休暇を与えた場合には、適用要件に該当する訓練と認定されれば、支援を受けることができます。
人材開発支援助成金とは、労働者の能力向上やキャリアアップを支援するために、国や地方自治体が企業に対して支給する助成金のことです。
助成金を受けることで、企業は従業員のスキルアップやキャリアアップを促進し、業務の効率化や競争力の向上につなげることができます。
職業訓練や技能研修、就業支援、中小企業の人材育成支援など、様々な分野で助成金が支給されています。
ただし、助成金を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。たとえば、受講者数や講師の資格、教育プログラムのカリキュラムなどが定められています。
詳細については、当事務所にお問い合わせください。
リカレント教育は、急速に変化する社会情勢や多様化する働き方に対応するための注目すべき手段として、幅広く取り上げられています。リカレント教育を取り入れることで、企業は競争力や生産性の向上、イノベーションの創出、優秀な人材の確保や定着率の向上など、多くの効果を期待できます。